空即是色。― AI に、企画は出せるのか

ブランドプロデューサーとして、ブランドのコアを考えたり、企画や演出を考えたりする仕事をしているから、少し、アイデアの話をしようと思う。最近 AI が本当にすごくて、うちでも毎日使っている。だから余計に、AI に企画は出せるのか、を考えてしまう。
昔から好きな言葉がある。般若心経の「色即是空、空即是色」。色は形のあるもの、空は形の無いもの、と自分は読んでいる。この言葉で書いてみる。
AI がすごい、は本当だ
事務作業は、もうほとんど AI でできる。エクセルも、パワポも、頼めば出てくる。システム開発もできる。事務やシステムを売っていた会社の株価が下がった、というニュースも見る。正直、産業革命より速いと思っている。うちでも、Web のコーディングとシステム開発では、補助的に使っている。マーケティングの数字を出させるのも、正直、刺さる。速い。文句は無い。ただ、その数字から答えを導き出すところは、まだ難しい部分がある。結局、分析はほぼ自分でやっている。
でも、心が揺さぶられたことがない
ただ、AI が出してくる企画やアイデアで、心が揺さぶられたことは、いまのところ一度もない。「いいね!」と思ったことも、一度もない。出てはくる。何案でも出てくる。整っている。間違ってもいない。でも、揺さぶられない。
色はある。空が無い。たぶん、そういうことだ。
自分のアイデア出しは、自分が生きてきた時間の中で、心を揺さぶられたり、記憶に残っている経験から繋がることが多い。しかも、ゴールとは関係のない経験からだ。そこから繋がったものが、いいアイデアや企画になる。コンセプトを作るのも同じだ。例えば、こういうものから来ている。どれも、形の無いものだ。
一つ目。高校のとき見ていた、海外の MV
高校生のころ、海外のミュージックビデオばかり見ていた。あの頃の画が、いまでも頭のどこかにある。企画を考えていて、ふっと出てくるアイデアの元をたどると、あの MV だった、ということが結構ある。
MV は、説明しない。画と音だけで、最初の数秒で持っていかれる。たぶん、そこで育った自分の企画は、「説明しないで伝える」方に寄っている。残っているのは、MV そのものではなく、持っていかれた感じの方だ。
二つ目。野沢の松明の、火の粉
この間、野沢温泉の祭りに行った。松明から火の粉が上がった瞬間、みんなが息を呑んで、「おおっ」という歓声が上がった。残っているのは、火の粉そのものより、あの瞬間の空気の方だ。
あれが頭から離れなくて、いま作っている新しい Ignition SERIES の演出に、あの火の粉の動きと、あの空気を取り入れようとしている。祭りと、うちのコンテンツに、関係は無い。
三つ目。小学校の夏休みの、絵の具
小学校の夏休み、絵の具を水の中に落としたときのこと。色が落ちていって、水の中で馴染んでいく。あの、有機的というのか、色のにじみ。何十年も前のことなのに、いま新しい Ignition SERIES の演出を考えるときも、あのにじみが出てくる。実際に、いま作っているものに盛り込んでいる。
実は、このにじみは一度、形にしている。2019年に作った「Ink in water」という映像だ。水の中に花を沈めて、絵の具を落とした。当時「非日常から生まれる、幻想的な世界」と書いた。夏休みの絵の具が、二十年以上たって、映像になった。
空即是色。形の無いものが、形になる
MV の画と、火の粉と、絵の具のにじみ。三つは、ゴールとは何の関係もない。時期も場所もばらばらだ。でも、一つの演出を考えているときに、この三つが線で結ばれた。線が重なると、面になる。面になったとき、企画が形になる。形の無いものが、形になる。空即是色は、自分の中では、企画のことだ。
書いていて気づいたけれど、好きなものは変わらないのかもしれない。小学校の絵の具と、高校の MV と、今年の火の粉。ばらばらに見えて、全部繋がっている。
経験上、こういう「関係ない場所から繋いだ企画」は、意外と良い。成功する確率も、高い気がする。ゴールに近いところから持ってきた企画より、ずっと。
色即是空。AI は、形から形を作る
AI の中身は、正直よく分かっていない。ただ、使っていて感じるのはこうだ。AI は、ゴールを渡すと、そのゴールに近いところにある事例や言葉を集めてきて、調理する。近いものを、うまく混ぜる。形から、形を作る。だから整うし、だから揺さぶられない。「新しい演出を考えて」と頼んでも、自分の夏休みの絵の具は出てこない。AI は、あの水の中を見ていない。
作る人の順番は、空から色。体験が先で、形はあと。AI の順番は、色から色。同じような形に見えても、出どころが逆だ。色即是空。形はあっても、中身が無い。
音楽も、同じだ
AI で音楽も作れる。作れるのは知っている。でも、やはり自分は、その音楽に美しさを感じない。
Ignition SERIES の音楽は、全部、秀吉さんが作っている。秀吉さんは、その土地に行って、現地の音をしっかりサンプリングする。川の音、風の音、その場所にしか無い音。そこから楽曲を作る。本人は普通にやっているけれど、普通はできない。そして AI には、絶対にできない。その場所に立っていないからだ。だから Ignition SERIES の音楽は、これからも秀吉さんと一緒に作る。
自分は、クリエイティブには魂が宿ると思っている。作った人の気持ちが、そのまま入る。AI が7〜8割いいものを出したとしても、残りの2〜3割は、人間の心を震わせる部分だ。その2〜3割が、空だと思っている。
だから、うちは空から作る
企画やアイデアは、自分の人生の中で心が揺さぶられたこと、感動したことが元になる。関係ない点と点を線で結んで、面にする。それは、揺さぶられた経験を持っている人にしかできない、と自分は思っている。だから、うちは空から作る。
クリエイティブの仕事は、これから確実に縮小してくるはずだ。それは分かっている。AI を仕事にしている人は、すぐに AI に食べられるはずだ、とも思っている。だけど、その先を見て、これから何が必要とされるか、何が人の心を揺さぶるかを考えながら、自分は会社の経営をしていきたい。
色は、これから誰でも作れるようになる。空は、生きてきた人の中にしか無い。空即是色。揺さぶられた分だけ、形になる。
AI が心を揺さぶる企画を出してきたら、その時はまた書く。いまのところ、一度もない。