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空即是色。― AI に、企画は出せるのか

水の中に沈めた花と、落とした絵の具のにじみ。Ink in water(2019)の一コマ

ブランドプロデューサーとして、ブランドのコアを考えたり、企画や演出を考えたりする仕事をしているから、少し、アイデアの話をしようと思う。最近 AI が本当にすごくて、うちでも毎日使っている。だから余計に、AI に企画は出せるのか、を考えてしまう。

昔から好きな言葉がある。般若心経の「色即是空、空即是色」。色は形のあるもの、空は形の無いもの、と自分は読んでいる。この言葉で書いてみる。

「色即是空、空即是色」の意味 色(しき) 形のあるもの 例:物、絵、音 言葉、企画 空(くう) 形の無いもの 例:気持ち、記憶 空気、思い 色即是空 形のあるものは、形の無いものからできている 空即是色 形の無いものが、形になって現れる
般若心経の言葉。自分は、こう読んでいる。

AI がすごい、は本当だ

事務作業は、もうほとんど AI でできる。エクセルも、パワポも、頼めば出てくる。システム開発もできる。事務やシステムを売っていた会社の株価が下がった、というニュースも見る。正直、産業革命より速いと思っている。うちでも、Web のコーディングとシステム開発では、補助的に使っている。マーケティングの数字を出させるのも、正直、刺さる。速い。文句は無い。ただ、その数字から答えを導き出すところは、まだ難しい部分がある。結局、分析はほぼ自分でやっている。

でも、心が揺さぶられたことがない

ただ、AI が出してくる企画やアイデアで、心が揺さぶられたことは、いまのところ一度もない。「いいね!」と思ったことも、一度もない。出てはくる。何案でも出てくる。整っている。間違ってもいない。でも、揺さぶられない。

色はある。空が無い。たぶん、そういうことだ。

自分のアイデア出しは、自分が生きてきた時間の中で、心を揺さぶられたり、記憶に残っている経験から繋がることが多い。しかも、ゴールとは関係のない経験からだ。そこから繋がったものが、いいアイデアや企画になる。コンセプトを作るのも同じだ。例えば、こういうものから来ている。どれも、形の無いものだ。

一つ目。高校のとき見ていた、海外の MV

高校生のころ、海外のミュージックビデオばかり見ていた。あの頃の画が、いまでも頭のどこかにある。企画を考えていて、ふっと出てくるアイデアの元をたどると、あの MV だった、ということが結構ある。

MV は、説明しない。画と音だけで、最初の数秒で持っていかれる。たぶん、そこで育った自分の企画は、「説明しないで伝える」方に寄っている。残っているのは、MV そのものではなく、持っていかれた感じの方だ。

二つ目。野沢の松明の、火の粉

この間、野沢温泉の祭りに行った。松明から火の粉が上がった瞬間、みんなが息を呑んで、「おおっ」という歓声が上がった。残っているのは、火の粉そのものより、あの瞬間の空気の方だ。

あれが頭から離れなくて、いま作っている新しい Ignition SERIES の演出に、あの火の粉の動きと、あの空気を取り入れようとしている。祭りと、うちのコンテンツに、関係は無い。

三つ目。小学校の夏休みの、絵の具

小学校の夏休み、絵の具を水の中に落としたときのこと。色が落ちていって、水の中で馴染んでいく。あの、有機的というのか、色のにじみ。何十年も前のことなのに、いま新しい Ignition SERIES の演出を考えるときも、あのにじみが出てくる。実際に、いま作っているものに盛り込んでいる。

実は、このにじみは一度、形にしている。2019年に作った「Ink in water」という映像だ。水の中に花を沈めて、絵の具を落とした。当時「非日常から生まれる、幻想的な世界」と書いた。夏休みの絵の具が、二十年以上たって、映像になった。

Ink in water(2019)

空即是色。形の無いものが、形になる

MV の画と、火の粉と、絵の具のにじみ。三つは、ゴールとは何の関係もない。時期も場所もばらばらだ。でも、一つの演出を考えているときに、この三つが線で結ばれた。線が重なると、面になる。面になったとき、企画が形になる。形の無いものが、形になる。空即是色は、自分の中では、企画のことだ。

書いていて気づいたけれど、好きなものは変わらないのかもしれない。小学校の絵の具と、高校の MV と、今年の火の粉。ばらばらに見えて、全部繋がっている。

空(形の無いもの)が、色(形)になる 高校の MV説明しない画 野沢の火の粉息を呑む空気と歓声 夏休みの絵の具水の中のにじみ 三つの空が、面になる 新しい演出(企画)=色
空即是色。形の無いものが、形になる。

経験上、こういう「関係ない場所から繋いだ企画」は、意外と良い。成功する確率も、高い気がする。ゴールに近いところから持ってきた企画より、ずっと。

色即是空。AI は、形から形を作る

AI の中身は、正直よく分かっていない。ただ、使っていて感じるのはこうだ。AI は、ゴールを渡すと、そのゴールに近いところにある事例や言葉を集めてきて、調理する。近いものを、うまく混ぜる。形から、形を作る。だから整うし、だから揺さぶられない。「新しい演出を考えて」と頼んでも、自分の夏休みの絵の具は出てこない。AI は、あの水の中を見ていない。

作る人の順番は、空から色。体験が先で、形はあと。AI の順番は、色から色。同じような形に見えても、出どころが逆だ。色即是空。形はあっても、中身が無い。

アイデアの、出どころ 自分のアイデア出し 生きてきた時間 心が揺さぶられた記憶 MV、火の粉、絵の具 関係ない経験が、繋がる 企画になる 空 → 色 AI のアイデア出し ゴールを渡される 近い事例と言葉を集める 世の中にある形 うまく混ぜて、整える 企画が出る 色 → 色
アイデアの、出どころ 自分のアイデア出し 生きてきた時間 心が揺さぶられた記憶 MV、火の粉、絵の具 関係ない経験が、繋がる 企画になる 空 → 色 AI のアイデア出し ゴールを渡される 近い事例と言葉を集める 世の中にある形 うまく混ぜて、整える 企画が出る 色 → 色
同じ「企画」に見えても、出どころが逆。

音楽も、同じだ

AI で音楽も作れる。作れるのは知っている。でも、やはり自分は、その音楽に美しさを感じない。

Ignition SERIES の音楽は、全部、秀吉さんが作っている。秀吉さんは、その土地に行って、現地の音をしっかりサンプリングする。川の音、風の音、その場所にしか無い音。そこから楽曲を作る。本人は普通にやっているけれど、普通はできない。そして AI には、絶対にできない。その場所に立っていないからだ。だから Ignition SERIES の音楽は、これからも秀吉さんと一緒に作る。

自分は、クリエイティブには魂が宿ると思っている。作った人の気持ちが、そのまま入る。AI が7〜8割いいものを出したとしても、残りの2〜3割は、人間の心を震わせる部分だ。その2〜3割が、空だと思っている。

だから、うちは空から作る

企画やアイデアは、自分の人生の中で心が揺さぶられたこと、感動したことが元になる。関係ない点と点を線で結んで、面にする。それは、揺さぶられた経験を持っている人にしかできない、と自分は思っている。だから、うちは空から作る。

クリエイティブの仕事は、これから確実に縮小してくるはずだ。それは分かっている。AI を仕事にしている人は、すぐに AI に食べられるはずだ、とも思っている。だけど、その先を見て、これから何が必要とされるか、何が人の心を揺さぶるかを考えながら、自分は会社の経営をしていきたい。

色は、これから誰でも作れるようになる。空は、生きてきた人の中にしか無い。空即是色。揺さぶられた分だけ、形になる。

AI が心を揺さぶる企画を出してきたら、その時はまた書く。いまのところ、一度もない。

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