2歳8か月の息子は、保育園の服と休みの日の服を分けている。― ブランディングとマーケティングの話

いつもブランディングの仕事をしているから、少し、ブランディングとマーケティングの話をしようと思う。少し堅苦しくなりそうだから、息子で例えてやってみようかな、と。
毎朝、自分で服を選ぶ
うちの息子は2歳8か月。毎朝、自分で服を選ぶ。こっちが用意した服は、まず着ない。保育園の日と休みの日で服を分けていて、靴下まで分けている。誰が教えたわけでもない。こだわりの強い男だ。
息子は、誰かにどう思われたくて選んでいるわけではない、と思う。本人に聞いても答えてくれない。それでも、毎日会う保育園の先生や、うちの頭の中には「こだわりの強い男」という印象が、いつの間にか溜まった。この、周りの頭の中にある印象がブランドだ。
会社も同じだ。電話に出た第一声。店の入り口の雰囲気。ホームページの写真の古さ。お客さんの頭の中には、それだけで「感じのいい会社」「少し古い会社」という印象が溜まっていく。会社は何も言っていないのに。それが、その会社のブランドになっている。
息子がやっていることを分けると、四つある。
① 先に「これがいい」がある。
② 合わない服は着ない。
③ 毎日、同じ人に会っている。
④ 毎朝、続けている。
①と②が、自分の側を整える話。これがブランディング。③と④が、その自分を人に届ける話。これがマーケティング。会社でも順番は同じだ。実例には BOX OF IRON HOUSE(以下、BOX)を出す。群馬でコンテナハウスを作っている会社で、うちが何年も一緒にやってきた。
① 「これがいい」を先に決める ― ブランドコンセプト
息子の場合で例えると、こうだ。息子は、服の前に「これがいい」が先にある。理由は言わない。休みの日はシャツを選ぶことが多くて、おしゃれをしているつもりなのかもしれない。服は、そのあとに決まる。
会社の場合は、「誰に、何を売るか」が先で、コピーはそのあとに決まる。
BOX で例えると、こうだ。一緒にやる前、BOX がコピーとして使っていたのは「のせる、つなぐ、遊ぶ。BOXだから自由自在」だった。分かりやすいし、嫌いじゃない。でも、コンテナハウスの会社なら、どこでも言える。ヒアリングで最初にやったのは、誰に売るかを一緒に明確にすることだった。しっかりしたコンテナハウスを建てたい人に、絞った。中身はここには書かない。
その人たちに、何と言うか。BOX は、日本製の JIS コンテナを自社工場で作るメーカーだ(これは BOX のサイトに書いてある)。「建てるなら、国産の本物を。」この言葉が浮かんだときには、これしかないと思った。社長や役員にも話して、満場一致だった。提案したのはうちで、決めたのは BOX だ。この一言の後ろには三つある。誰に売るか。何を売るか。なぜそう言えるか。この三つが、ブランドコンセプトだ。コピーの言い方は媒体で変えていい。でも中身の三つは、簡単に変えない。
② 合わないものは、着ない ― やらないことを決める
息子の場合で例えると、こうだ。用意した服を着ないのは、息子の中に「これは着ない」があるからだ。
会社の場合は、やることと一緒に、やらないことを決める。言わない言葉。出さない写真。受けない仕事。やらない安売り。
BOX で例えると、こうだ。BOX でも、やらないことを決めた。一つ書けるのは「言わない言葉」だ。コピーから「自由自在」を外した。便利な言葉を外すのは、簡単ではない。自分の会社だったら、迷うと思う。ただ、「自由」は消えていない。いまは「国産だから、敷地に合わせて自由なサイズで作れる」と、コピーを支える説明の中で生きている。コピーからは外したが、捨ててはいない。
うちのヒアリングでは、やらないことを必ず聞く。聞かれる側は、たいてい黙る。息子が服を着ないことに痛みはない。会社が何かを捨てるのには痛みがある。だから、ここに一番時間がかかる。急がせない。ここまでがブランディングだ。
③ 会う場所を作る ― ブランドタッチポイント
ここからが、マーケティングの話だ。
息子の場合で例えると、こうだ。息子の印象が溜まるのは、毎日会う人の中でだ。保育園の先生、友だち、うち。会わない人の頭の中には、何も溜まらない。
会社の場合は、どれだけ決めても、お客さんと会う場所が無ければ始まらない。お客さんが会社に触れる場面を、ブランドタッチポイントと呼ぶ。ホームページ、パンフレット、写真、動画、SNS、看板、店の空間。うちが作るのはこの辺りだ。お店なら店先、作る会社なら展示会や工場見学も会う場所になる。そして、お客さんから見れば電話の応対も見積書も同じ会社の顔で、そこまで含めて全部が場面だ。ここが揃っていない会社にかっこいいホームページを作っても、電話に出た瞬間に崩れる。
もう一つ、会社ならではの難しさがある。お客さんと会う場面は、いろんな人が作る。ホームページは Web の人、ロゴはデザイナー、動画は映像の人。みんな腕はいい。でも先に決めた一言が無いと、それぞれが自分の「いい感じ」で作ってしまう。ホームページも、ロゴも、動画も、一つひとつはきれいなのに、並べると別の会社に見える。それを防ぐのが、①で決めた一言だ。
BOX で例えると、こうだ。BOX のお客さんは、コンテナハウスを探すとき、YouTube や Instagram を見ている。眺めているうちにルームツアー動画に当たり、そこで BOX を知る。信じる決め手は「この社長が言うなら」。それからモデルハウスや現場を見に来て、建てて、住んでから人に話す。
BOX では、パンフレット、Web、YouTube、SNS を、同じ一言から作り直した。場面の設計まで提案したのは、うちだ。出会いの場になったのは YouTube のルームツアー動画で、問い合わせの大半が「動画を見た」と言ってくる、と社長が書いてくれている。


この動画には、社長が出ている。最初はすごく嫌がっていた。正直、自分も人に「顔を出してください」と言うのは気が重い。自分が前に出るのが好きではないからだ。でも「国産の本物」と言い切る会社が、作っている人の顔を出さないのは、コピーと合わない。なんとか承諾してもらって、出てもらった。最初の動画でかなりの反響があって、いまは社長が出るのが当たり前になっている。「この人が言うなら」の、この人が要る。うちがタッチポイントに置きたいのは、作っている人の顔が見える場面だ。顔は、作り物でない根拠になる。そして、その先にあるのは、社長やその会社のファンになってもらうことだ。会社を選ぶ前に、人を好きになってもらう。ファンかどうかは、頼み方で分かる。「どこかで建てたい」ではなく、「この会社で建てたい」と言って来る人だ。
④ 毎朝、続ける
息子の場合で例えると、こうだ。「こだわりの強い男」は、一日の一着ではできない。毎朝、同じ子が同じ調子で選んでいるのを、先生も自分たちも見ているから溜まる。
会社の場合は、お客さんは決めるまでに、ホームページ、動画、パンフレット、電話、現場と、何度も会社に触れる。選ばれるのは、一番良い会社ではなく、決める瞬間に思い出してもらえた会社だ。だから触れるたびに、同じ顔と同じ一言で、思い出しやすくしておく。その全部で、同じ考えを、同じ色と同じ話し方で出す。別の会社に見えたところで、印象は薄れる。
BOX で例えると、こうだ。BOX は、同じ顔と同じ一言を、紙でも Web でも動画でも、何年も出し続けている。いまは、10万回を超えて見られた動画が9本、うち3本は50万回を超える。YouTube の登録者は2.4万人、Instagram のフォロワーは2.7万人(2026年9月、公開の数)。コンテナハウスの会社のチャンネルとしては、群を抜いていると思う。この数は、社長とその会社のファンの数だと思っている。自社のコンテンツの置き場が、できあがっている。一本の動画で終わらなかったのは、出し続けたからだ。見た人が人に話し、それが次の人の出会いになる。
やらないと決めたことを一回やると、口コミと噂に出る。そこは自分では書き換えられない。やらないことを決めておくのは、積み上げを守るためでもある。
まとめ
教科書の切り方とは少し違うが、自分は仕事の上でこう分けている。ブランディングは、誰にどう思われたいかを決めて、自分の側を整えること(①②)。マーケティングは、その人と会う場所を作って、届け続けること(③④)。順番はブランディングが先。会う場所だけ先に作ると、届いた先に「どこでも言えること」しか無い。逆に、コピーを決めただけで会う場所を作らないと、誰にも出会わない。両方要る。
自分の会社がどこにいるかは、四つで分かる。①誰に、何を、なぜそう言えるかを、社長が一言で言えるか。②やらないことを、すぐ言えるか。③お客さんと最初に会う場所を、社員が同じ答えで言えるか。④同じ言葉と同じ顔を、去年も今年も出し続けているか。言えないところが、手を付ける場所だ。
①が言えないなら、直近で受注した3社に「なぜうちに頼んだか」を聞く。②は、断った仕事を一つ思い出して、なぜ断ったかを書く。③は、最初に会う場所を一つに決める。④は、去年のパンフレットと今のホームページを並べて、同じ会社に見えるか見る。うちのブランディングも、そこから始める。BOX の実績はこちら。
息子には、まだ何も教えていない。教わっているのは、こっちだ。